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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)2391号 判決

原告

曾禰信二

外二名

代理人

小川休衛

木村英一

復代理人

安永博

被告

藤井幸夫

代理人

日野和昌

木村暁

被告

長瀬重雄

代理人

島林樹

復代理人

安田昌資

主文

被告らは連帯して原告曾禰信二に対し金二、〇六九、七八九円、原告上石秀夫に対し金一、四二七、一三六円、原告長岡幸吉に対し金三六四、七七五円および右各金員に対する昭和四三年五月一一日から支払済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

被告藤井幸夫は原告曾禰信二に対し金三六〇、〇〇〇円およびこれ対する昭和四三年五月一一日から支払済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

原告らの被告らに対するその余の請求、原告曾禰信二の被告藤井幸夫に対するその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を原告らのその余を被告らの各負担とする。

この判決は原告ら勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一  請求の趣旨

一、被告らは連帯して原告曾禰に対し二、四四四、七六九円、原告上石に対し二、四九八、二三五円、原告長岡に対し七〇〇、六〇六円及び右各金員に対する昭和四三年五日一一日から支払済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

二、被告藤井は原告曾禰に対し四〇〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和四三年五月一一日から支払済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

第二  請求の趣旨に対する各被告の答弁

一、原告らの請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告らの負担とする

との判決を求める。

第三  請求の原因

一、(事故の発生)

昭和四二年一〇月一六日午後六時三〇分頃中野区野方二ノ六三ノ七、環状七号線道路のセンターライン寄りを高円寺方向に進行中の原告曾禰運転、原告上石、同長岡同乗の自家用乗用車(品川に八一〇七以下乙車という)に、被告藤井の運転する自家用乗用車(品川四ふ三一三〇以下甲車という)が追突接触したため、原告自動車はその衝撃によりセンターラインを超えて右前方に押出され、その前部が折から同所に対向してきた訴外石井睦弘運転の普通貨物自動車(品四に四五七一以下丙車という)の前部に衝突したもので、右事故により原告曾禰は、左外傷性眼球破裂、右膝蓋骨々折、原告上石は頭蓋骨折、第四頸推圧迫骨折、右腓骨々折、右第一―七肋骨々折、被告長岡は右股関節外傷性脱臼の各傷害を受けたものである。

二、(被告らの責任)

(1)  本件事故は運転者たる被告藤井の前方注意義務違反と運転操作違反の過失によつて惹起されたものであり、被告藤井は後記損害について民法第七〇九条の責任がある。

(2)  被告長瀬は被告藤井運転の自動車を所有し、当時被告藤井に右自動車を無償貸与していたところ、本件事故を惹起したもので、被告車を自己のために運行の用に供したものとして後記三(一)(11)以外の人的損害について、自賠法第三条の責任がある。

三、(損害)

(一)原告曾禰の治療費等損害

原告曾禰(以下曾禰と略称)は、本件事故により前記傷害を受け、昭和四二年一〇月一六日訴外中野病院を経て東京医科大学病院に各入院、頭部裂創縫合術、眼球内容除去術、膝蓋骨成形術等の手術を受け、同年一二月四日退院、その後も訴外目浦病院等に通院加療を続けているが、そのため曾禰は次のような損害を受けた。

(1)治療費等

(イ)入院費、治療費(昭和四二年一〇月一六日から同年一二月三一日まで)

(ロ)入院中の燃料費 金四五〇円

(ハ)退院時のタクシー代

金一、五〇〇円

(ニ)通院費(昭和四三年一月五日迄)

金二、八四〇円

(ホ)義眼代 金七、八九〇円

(2)入院中における日用品購入費

金六、〇一五円

(3)入院中における衣服洗濯代

金二五〇円

(4)栄養保給費(牛乳代) 金二、六二一円

(5)付添費用 金五五、八四〇円

(イ)付添人費用 金四八、六四〇円

曾禰は、入院中は全く歩行できず、退院後も歩行不自由のためその治療通院に関しては、妻が始終付添い曾彌の世話をした。ところで妻は当時訴外株式会社共栄社に事務員として勤務し、日給金七六〇円の収入を得ていたところ、前記付添いのため右会社を六四日欠勤したため、その期間全く収入を得られなかつたもので、少くともその間の賃金合計金四八、六四〇円の損害を被つたものである。

(ロ)付添人寝具代 金七、二〇〇円

(6)松葉杖購入費 金一、九六〇円

(7)家族見舞のための交通費 金八七〇円

(8)見舞客接待費 金三、三五〇円

(9)ガス使用代 金九四五円

退院後の昭和四三年一月一〇日より、医師の指示により入浴による右脚マッサージをしたが、そのため右入浴のためのガス使用料として一月分(二一日間)金九四五円を支払つた。

(10)事故対策費 金三、四〇〇円

診断書 五通 金二、二〇〇円

診察券 四通 金八〇〇円

証明書 二通 金四〇〇円

(11)物的損害 金四〇〇、〇〇〇円

曾禰は本件事故によつて、その所有車を修理不能といえる程度まで毀損された。同車は昭和四二年七月二七日訴外千代田三菱自動車販売会社から買入れたもので、事故当日までの走行距離は二、二五〇キロ程度で、その価格は金四〇〇、〇〇〇円を下らなかつた。よつて金四〇〇、〇〇〇円の損害を受けた。

(二)  原告上石の治療費等損害

原告上石(以下上石と略称)は、本件事故により前記のような傷害を受け、昭和四二年一〇月一六日訴外伊藤病院に入院、同年一二月二三日同所を退院、引続き通院加療を続けているが、そのため上石は次のような損害を受けたのである。

(1)治療費等

(イ)入院費、治療費(昭和四二年一〇月一六日から同年一二月三一日まで)

金一七八、〇三五円

(ロ)薬代 金六三〇円

(ハ)弾力包帯 一本 金二五〇円

(ニ)頸椎カラー、同付属品

金三、六五〇円

(ホ)退院時のタクシー代

金一、五〇〇円

(ヘ)通院費 金一、一一〇円

(2)入院中における日用品購入費

金一〇、三三〇円

(3)入院中における栄養補食費

金六、二八五円

内訳

(1)牛乳代 金三、八四五円

(2)チーズ代 金九二〇円

(3)バター代 金七二〇円

(4)ビタミン剤購入費 金五〇〇円

(5)果物代 金三〇〇円

(4)入院中における副食費

金二、〇九〇円

(5)付添料 金九四、八五五円

(イ)昭和四二年一〇月一六日より同年一一月三〇日迄の付添料

金七一、八五五円

上石は入院当初全く歩行不自由であつたため入院時たる昭和四二年一〇月一六日より同年一一月三〇日迄の四六日間職業看護人たる訴外児玉糸枝が上石の一切の世話をした。そのため上石は付添料、手数料等として合計金七一、八五五円を支払つた。

(ロ)昭和四二年一二月一日より同月二三日までの付添料 金二三、〇〇〇円

この期間も原告はなお歩行不自由であつたため、その付添人として長女佐知子(二二才)が終始原告の世話をした。然して職業付添人を雇えば一日金一、五〇〇円の賃金を支払わなければならないところ、原告の長女がこれに当つたため、これに要した費用は一日金一、〇〇〇円と算定すべく、よつて二三日間の合計金二三、〇〇〇円の損失を被つたというべきである。

(6)家族見舞のための交通費

金一五、一六〇円

(7)見舞客接待費 金八、〇〇〇円

(8)通信費 金一、一三〇円

入院療養中家事、仕事に関し家(親)族、会社との連絡についての電話代、封筒代等として金一、一三〇円を支出した。

(9)診断書 四通 金一、二〇〇円

(三)  原告長岡の治療費等損害

原告長岡(以下長岡と略称)は、本件事故により前記のような傷害を受け、昭和四二年一〇月一六日より訴外横畠外科病院に入院、同三〇日同所を退院し、その後同年一一月二六日迄自宅より通院治療を続けていたもので、これにより右長岡は次のような損害を受けた。

(1)治療費等

(イ)入院治療費 金三九、四七六円

(ロ)入院中の燃料費 金二〇〇円

(ハ)通院費 金二、九二〇円

(2)入院中における日用品購入費

金二、四五〇円

(3)入院中、治療中における栄養補(副)食費 金二、四五〇円

内訳

(イ)タマゴ代 金五〇〇円

(ロ)肉代 金一、〇五〇円

(ハ)牛乳代 金九〇〇円

(4)松葉杖借賃 金四二〇円

長岡は入院中歩行不自由のため、松葉杖を借り使用したが、その賃料は一日金三〇円で一四日使用したため合計金四二〇円を支払つたものである。

(5)家族見舞のための交通費

金三、五〇〇円

(6)見舞客接待費 金一、四〇〇円

(7)見舞返礼費 金三、三〇〇円

(8)療養のためのガス使用代

金八四〇円

長岡はギプス除去(昭和四二年一二月一〇日)後医師より患部治療のため一日二回の入浴による温浴療法を指示されたが、長岡は右入浴ガス代として昭和四三年一月末日迄に合計金八四〇円の費用の支出を余儀なくされたものである。

(四)原告等の逸失利益

A 給与の損失

原告らは当時いずれも訴外三菱重工業株式会社東京製作所の職員であつたところ、原告らは右訴外会社より月給及び左記算出方式(昭和四二年一〇月現在)により、計算した勤務給、家族手当、過勤料(以下給与という)として一ケ月次の通りの収入を得ていたものである。

家族手当

配偶者700円,子供500円

過勤時間は原告らの過去三ケ月にわたる平均過勤時間、原告曾禰は四〇時間、同上石三五時間、同長岡八時間とした。

月給円

勤務給  円

家族手当 円

過勤料  円

給与合計額 円

曾禰

三〇、七五〇

四六、八一〇

一、〇〇〇

(子2人)

二二、一六〇

一〇〇、七二〇

上石

三二、四〇〇

四九、二四〇

一、二〇〇

(妻、子)

二〇、七一〇

一〇三、五五〇

長岡

三七、五〇〇

五五、五七〇

七〇〇

(妻)

二五、四六〇

一一九、二三〇

しかして原告らは本件事故による前記傷害のための入院、通院治療のため原告曾禰、同上右は昭和四二年一〇月一六日より同四三年三月末まで欠勤し、欠勤しなければならず、又原告長岡は昭和四二年一〇月一六日より翌一一月二六日まで入院のため欠勤した。

そのため原告らは次のとおりの収入損を蒙つた。

(1)原告曾禰の損失

(イ)昭和四二年一一月分給与の損失

右月分の給与として金五八、三七〇円の支給を受けたに止まり、前記給与との差額金四二、三五〇円の損失を受けた。

(ロ)昭和四二年一二月分より同四三年三月分までの給与の損失。

この期間は訴外会社よりの給与の支給は受け得ず、給与四ケ月分計金四〇二、八八〇円の損失。

(2)原告上石の損失

(イ)昭和四二年一〇月分過勤料の損失

過勤時間二〇時間として金一一、八四〇円の損失を受けた。

(ロ)昭和四二年一一月分給与の損失

右月分の給与として金六一、一七〇円の支給を受けたに止り、前記給与との差額金四二、三八〇円の損失を受けた。

(ハ)昭和四二年一二月分より同四三年三月分迄の給与の損失。

この期間は訴外会社よりの給与の支給は受け得ず、給与四ケ月合計金四一四、二〇〇円の損失を受けた。

(3)原告長岡の損失

(イ)昭和四二年一〇月分過勤料の損失

過勤時間一九時間として金一二、七三〇円の損失を受けた。

(ロ)昭和四三年一一月分給与の損失

右月分の給与として金五五、九九〇円の支給を受けたに止まり、前記給与との差額金六三、二四〇円の損失を受けた。

(ハ)昭和四二年一二月分給与の損失。

右月分の給与として金九三、七七〇円の支給を受けたに止まり、前記給与(過勤料は一九時間の損失として計算した金額一二、七三〇円)との差額金一二、七三〇円の損失を受けた。

B 賞与の損失

前記訴外会社では職員に毎年五月一日より一〇月三〇日、一一月一日より四月三〇日までの稼働実績を基に、七月と一二月の二回に亘り定期的に左記算出方式により一定額の賞与が支給されるが、原告らはいずれも前記期間中に欠勤したため通常の場合に得らるべき賞与額より減額され、損失を受けたものである。

(月給×(配分系数+勤続系数)×支給率)+(月給×支給率×配分系数+5,500円+家族手当(1.1ケ月)

以下右方式に基づいて原告らの(原告曾禰は後記C)損失額を計算すると(系数は昭和四二年一二月分賞与の例によつた)。

(1)原告上石の損失。

昭和四三年七月分賞与の損失

(32400円×(123+0.10)×120)×32400円×138×2978×5500円+1320円)

=191690円

となるべきところ、右金額に約二九%(欠勤日数一二〇日として計算)減給された金一三六、一〇〇円の支給しか得られず、右差額金五五、五九〇円の損失を受けることになる。

(2)原告長岡の損失。

(37500円×(125×0.11)×120)

+(37500円×138×2978)+3500円

+770円=221590円

となるところ、昭和四二年一二月分賞与として金二一七、一五〇円(二%減)を支給され、又昭和四三年七月分賞与として約七%を減じた金二〇六、〇八〇円が支給されるがこれにより原告は一二月賞与において金四、四四〇円、七月賞与において金一五、五一〇円、計金一九、九五〇円の損失を受けることになる。

C 原告曾禰の定期昇給額を加算することによる給与等の損失。

訴外会社では毎年四月一日職責、職能、能力、勤務成績、人物を考慮の上、に定める最高、最低の範囲内において昇給することになつているが、原告曾禰は前記のように欠勤したため、欠格昇給該当者とされて通常昇給を受けず、そのため昭和四三年四月以降昭和四八年一〇月(定年退職時)までの期間、給与額、賞与額及び退職金慰労金のそれぞれにつき、別表の如く

本給区分

予算基準額

最高

最低

本給金二二、〇〇〇円以上

一、四〇〇

二、〇〇〇

八〇〇

〃金三二、〇〇〇円以上

一、七〇〇

二、三五〇

九五〇

(1)給与額につき金二三二、六二〇円

(2)賞与額につき金一四〇、五九〇円

(3)退職慰労金一三六、三〇〇円

の計金五〇九、五一〇円の昇給加算増額金の損失を受けることになり、これを昭和四三年四月一日を基準とする現価をホフマン式計算により年五分の中間利息を差引いて計算すると金四三五、一八二円となる。

(五)慰藉料

(1)原告曾禰の慰藉料

金一、〇〇〇、〇〇〇円

(2)原告上石の慰藉料

金一、五〇〇、〇〇〇円

(3)原告長岡の慰藉料

金五〇〇、〇〇〇円

(六)弁護士費用

原告らは本訴請求のため第一東京弁護士会所属弁護士小川休衛に依頼し、同会の弁護士報酬定による報酬額の標準のうち最低料率による印刷代、費用手数料及び謝金として原告らは小川弁護士に対し原告曾禰は金四〇万円、同上石は金三〇万円、同長岡は金七万円を各支払うことになつている。

然し本訴では原告曾禰の分として内金二〇万円、同上石の分として内金一五万円、同長岡の分として内金三五、〇〇〇円を請求する。

よつて被告らに対し、原告曾禰は二、四四四、七六九円、原告上石は二、四九八、二三五円、原告長岡はは七〇〇、六〇六円及び右各金員に対する訴状送達の日の翌日である昭和四三年五月一一日から支払済にいたるまで年五分の割合による遅延損害金、被告藤井に対し原告曾禰は四〇〇、〇〇〇円およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四三年五月一一日から支払済にいたるまで年五分の割合による金員の支払を求める。

第四、被告藤井の事実主張

一、請求原因の認否

(一)  第一項中甲車が乙車に追突したとの点およびその衝撃により乙車が右前方に押されたとの点は否認。

原告らの傷害については不知。

その余は認める。

(二)  第二項(1)は否認。

第二項(2)については、当時、被告藤井は被告長瀬の自動車を修理を兼ねて預り保管中であつたが、被告藤井は被告長瀬と従来から相互に自動車の貸借をしておりいつでも本件自動車を運転できる立場にあつた。

(三)  第三項は不知。

二、被告藤井の主張

(一)(1)被告藤井は環七道路第二通行帯を進行中国鉄ガード手前で第三通行帯を先行していた乙車を認め、国鉄ガードをこえた附近で乙車を追い抜いた。その直後、甲車の左側第一通行帯を通行してきたタクシーが右へ寄つてきたので、これを避けるため、被告藤井は方向指示器をだし、バックミラーを見て後方を注意しながらやゝ右へ寄つたとき、原告曾禰の前方不注意により甲車後部と乙車前部が接触し、その衝撃により甲車は左に進路を変えた。

(2)被告藤井は直ちに右へハンドルをきり、進路をもとへもどしたところ直進してきた乙車の左側面と甲車の右側面が接触したので被告藤井は左に、原告は右にそれぞれハンドルをきつたが、その際両車の後部が再び接触した。

(3)接触後、被告藤井は直ちにブレーキをふみ、七米程前進して停車した。しかるに乙車は速度を落すことなく、そのまゝセンターラインをこえて、右斜前方に四〇米程も進行し、折から右側歩道際を進行してきた対向車と衝突したものである。

(4)  すなわち、第一回目の接触は原告曾禰の前方不注視が原因であり、第二回目の接触は、第一回目の接触が原因であり、対向車との衝突は右衝突を回避する手段があつたのに原告曾禰が何ら、その措置をとらなかつたことによるもので、被告藤井には何ら責任はない。

(二)  かりに被告藤井に多少の過失があつたとしても、前項記載の如く本件事故発生の主たる原因は原告曾禰の過失にあり、損害額の算定につき、右原告の過失を斟酌すべきである。

なお、原告上石、同長岡は乙車の同乗者であるが、両名は原告曾禰と職場も共通であり、同僚として共同で慰安旅行に出たということであるから損益関係の実質上からもまた被害者の内部問題として処理することが公平であるという点からも被害者側として過失相殺の対象とすべきである。

第五、被告長瀬の事実主張

一、請求の原因に対する答弁

(一)  請求原因第一項のうち原告主張の日付場所において、乙車と甲車が接触し、その結果乙車が訴外石井睦弘の運転する普通貨物自動車と衝突したことは認める。右事故による原告らの傷害の部位程度はいずれも不知。

(二)  同第二項のうち被告長瀬が、自賠法第三条の運行供用者たる責任を負う旨の主張は争う。被告藤井が当時運転していた車輛は被告長瀬の所有に属することは認める。被告長瀬が当時被告藤井に右自動車を無償貸与していたことは否認する。

(三)  同第三項にかゝる原告ら各自の損害額及び慰藉料算定の根拠たる事実はいずれも不知。

二、被告長瀬の主張

(一)  運行供用者の不成立

原告らは被告長瀬の責任について、「当時同被告がその所有にかかる被告藤井に自動車を無償貸与していた」ので、被告車を自己のために運行の用に供したものとして自賠法第三条の責任を追求するが、右は事実に反し、被告藤井が事故当時被告長瀬所有の乗用車を運転していた経緯は次の通りである。

すなわち、被告長瀬は本件事故より先、昭和四二年一月三日頃岡山県和気郡佐伯町において交通事故を惹起しそれによつて、同年九月二八日東京都公安委員会から六〇日間、運転免許停止処分をうけた。そこで被告長瀬は従来から貸車庫を利用し、賃料を支払つて自動車を保管していたこと、及び運転免許停止期間中、自らの傍に車を置くことは不適当と考え、その保管方法を思案の揚句被告藤井が、日本空輸株式会社の土地を利用して、車輛の修理をしていたので、同人にその修理場の一隅にでも置いてくれるように依頼した。もとよりその保管につき右当事者間には何ら保管料、使用料等の取り決めがなく、況んや被告藤井が同車輛を利用してよいなどのことは予想もしていなかつた。(被告藤井は、以前から乗用車一台を所有していた)被告藤井は同年一〇月三日頃、被告長瀬所有にかかる車輛を運転して移送した。その後約一〇日過ぎに被告長瀬は路上に自己の車輛が置いてあるのを見付け被告藤井に対し、右車輛を無断で乗つたことを厳重に抗議し、あらためて被告藤井に同車を使用させる趣旨でないことを明示確認しておいた。ところで被告藤井は事故当時、埼玉方面にベビーダンスを積送する予定であつたことはのちに判明したが、被告藤井からは被告長瀬に対し右事故直後何ら説明がなく、しかも破損箇所は自ら修理し、引渡したので被告長瀬には全く事故のことは判らず警察当局の捜査の結果、それを知らされた。したがつて被告長瀬と被告藤井は本件車輛の修理を依頼したことがある関係にはなるが、もとより、今回は自動車の修理を依頼したものでなく、たまたま修理業者が利用している第三者の土地に唯単に自動車を置かせてくれるように依頼し被告藤井が自動車を使用することについては明示してあつたものである。

それにも拘らず被告藤井はもつぱら自らの私用の目的で同車を無断運転して事故を惹起したのであるから両者の人的関係は極めて稀薄であり、かつ被告藤井の具体的運行が保有者とは客観的には全く係りあいのないものであるから、被告長瀬につき自賠法第三条の責任は成立しないというべきである。

(二)  過失相殺

本件事故は被告藤井及び原告曾禰の運転上の過失が競合して惹起したものである。

すなわち事故直前原被告両車輛は並進し、走行していたものであるところ偶々両車輛が極めて接近し、乙車の後部左側の部分と甲車の右後方部が先づ、接触事故を惹起した。右事故の結果原告曾禰は当然運転を中止して停止し、さらに事故が拡大するのを防止しなければならない義務があるにも拘らず、これに気付かず、そのまま走行したため、第一の地点から約三十数メートル走行した地点で両車輛が再び接触し、その結果センターラインをこえた乙車が対抗車輛と接触し、本件事故を発生した。因に原告曾禰は運転免許取得間もなく、最初の接触後の結果回避措置が必ずしも十分でなかつたと推測される。したがつて原告曾禰の右過失は本件損害賠償額につき十分斟酌されなければならない。原告上石、同長岡についての過失相殺の主張は被告藤井の主張を援用する。

第六、証拠関係〈略〉

理由

一、(被告長瀬の運行供用者責任)

甲車が被告長瀬の所有に属することは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、被告長瀬は昭和四一年頃から、訴外清洲自動車修理工場に勤めていた被告藤井と知り合い被告藤井個人に対して自動車の修理を依頼し、同人に食事を御馳走するといつた個人的な交際があり、本件事故前に被告藤井から二、三回自動車を借りて運転したり、又は同人に対し自動車を数回貸与し運転させたりしていたところ、昭和四二年九月二八日頃に、同年一月の交通事故により免許停止六〇日の行政処分を受けたので、同年一〇月三日頃被告藤井に対し、甲車の板金関係の修理、ブレーキ、クラッチハンドル等の調整を依頼し、合わせ運転免許停止期間中預つてもらうことを依頼し、甲車を引渡した。被告藤井は、板金関係の修理を三愛モータースに依頼して済ませた後同年一〇月一六日被告長瀬に無断で、事後に長瀬に承諾を得るつもりで、友人にたのまれたので甲車にベビーダンスを積み運搬し、その帰途本件事故を惹起したことが認められる。右事実によれば、被告長瀬と同藤井の個人的関係、従前相互に自動車の賃借をしていた関係、本件甲車の修理保管を依頼した期間等からみて、被告長瀬において被告藤井が甲車を運転することを許容し、被告藤井を介し甲車の運行を支配していたものとみるべきで、被告長瀬に甲車の運行の支配を喪失したものとはいえないのである。従つて被告長瀬は自賠法第三条により原告らの人的損害を賠償すべき義務がある。

二、(本件事故の態様、過失関係)

原告主張日時場所において被告藤井の甲車と原告曾禰運転の乙車が接触したことは当事者間に争いがない。

〈証拠〉を総合すれば次の事実が認められる。

(一)  本件事故現場は羽田から足立区西新井に通ずる車道幅員19.6米の環状七号線で、センターラインの両側は各三車線に区分され、最高時速は五〇粁と定められており、夜間は水銀灯、屋上のネオン灯等が点灯されている路上は明るい。

(二)  原告曾禰は乙車を運転し、原告上石を助手席同長岡を後部座席に同乗させ、時速約五〇粁で本件道路のセンターラインの左側第三車線を進行中、同じく第二車線の後方より進行してきた甲車が急に乙車に接近して来、乙車左側後部に甲車右側後部を接触されたが、原告曾禰はこの接触に気付かず、そのまゝ第三車線を約三〇米位進行したところで再び甲車が接近し乙車の前に入ろうとし、斜に第三車線に入つてきたため乙車左側前部が甲車右側後部に強く接触され、このため原告曾禰は瞬間的に乙車のハンドルを右に切りブレーキをふんだがその後は気が動転し無意識のうちにかなり急な角度でセンターラインを超え、第二回目の接触地点より約二〇米進んだ地点で対向車線を走つてきた訴外石井睦弘運転の丙車前部に衝突した。

(三)  被告藤井は甲車を運転し時速約五〇粁で本件道路第二車線を進行し、第三車線を走つて行く乙車の約二〜三〇米斜め後から追尾して行つたが、甲車の左の方からタクシーが甲車の方に寄つて来たので、甲車のウインカーを出し右に寄り第三車線に入りこみ乙車のほぼ横に並ぶ状態になり、前記のように乙車左後部に甲車右後部を接触させ、第二車線にもどり、時速約六〇粁で約三〇米進み、第三車線を進行中の乙車の斜前面に出るような形で、甲車が第三車線に入りこんだとき、甲車右後部を乙車左前部に接触させた。

(四)  本件事故により原告曾禰は頭部挫創、眼球破裂、右膝蓋骨々折、原告上石は頭蓋骨折、第四頸椎圧迫骨折、右腓骨々折、右第一―七肋骨々折、原告長岡は右股関節外傷性脱臼の傷害を受け、乙車が損壊した。

右認定事実によれば、被告藤井には甲車に接近して来たタクシーがあつた場合、直ちに減速徐行し左側のタクシーの通過を待つか、あるいは甲車より稍先行する乙車を先行させたうえ第三車線に進路変更をする等をして事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのにこれに違反し、右方の安全を確認することなく、第三車線に入り乙車に二度に亘り接触した過失がある、一方原告曾禰は、第一回の接触には気付いていないが、乙車の近くに甲車が寄つて来たことを感じており、その後第二回の接触にいたるまでの二、三秒間、乙車の左側を通り乙車の前に入りこもうとして進行している甲車に気付いているはずであるので右の甲車の動静に注意し、減速する等の措置をとり第二回の接触事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのにこれに違反し、前と同じ速度で第三車線を直進した過失が認められる。さらに、被告らは、原告曾禰に第一回の接触にいたる以前に前方不注視の過失があつたと主張するが、前認定のとおり先行する乙車に甲車が急に進路を変え接触したのであるから、原告曾禰にかゝる過失は認められない。又被告は、第二回接触後乙車がセンターラインを超えたのは原告曾禰にも過失がある旨主張するが、前認定の接触の態様からみて、左方から来た危険に対し突差に右にハンドルを切ることは無理からぬことであり、かつ、気が動転し明確な意識なく二〇米位進みセンターラインを超えたことについても、これをもつて原告曾禰の運転上の過失とみることはできない。しかして、前認定の被告藤井と原告曾禰の過失割合は被告藤井九対原告曾禰一と認められる。

〈証拠〉によれば、原告ら三名は当時職場の同僚であり、原告ら三名と訴外竹の内正三を加え、旅行グループを作り、自動車により東北旅行をした帰り途であつたことが認められるので、原告上石、同長岡の損害についても、前認定の原告曾禰の過失を被害者側の過失として斟酌すべきものと解する。

三、(損害)

(一)  原告曾禰の治療費等損害

〈証拠〉によれば、原告曾禰は本件事故による前記受傷のため昭和四二年一〇月一六日中野病院に入院、同日より同年一二月四日まで五〇日間東京医科大学病院に入院治療を受け、その後昭和四三年一月二二日から同年七月二日頃まで目蒲病院に通院したこと、(イ)昭和四二年一二月三一日までの入院費治療費として二七六、三二六円を要したこと、(ロ)入院中の燃料費、入院中における日用品購入費、入院中における衣服洗濯代、栄養保給費、見舞客接待費、家族見舞のための交通費として一万円を超える出費をしたこと、(ハ)退院時のタクシー代として一、五〇〇円、通院のためのタクシー代として二、八四〇円を出費したこと、(ニ)義眼代として七、八九〇円を出費したこと、(ホ)原告曾禰入院中および通院に際し同人の妻が付添をなし、勤め先を欠勤したため一日七六〇円の給料を得ることができなかつたこと、(ヘ)付添のため寝具を借り七、二〇〇円を支払つたこと、(ト)松葉杖を購入し、一、九六〇円支払つたこと、(チ)退院後入浴によるマッサージを必要としたためガス使用代として九四五円を支払つたこと、(リ)診断書、証明書等の費用として三、四〇〇円を支払つたこと、(ヌ)原告曾禰は乙車を昭和四二年七月二七日新車で五八万円で買い、事故当時二、二五〇粁走行していたが本件事故により修理不能程度に破損したこと、が認められる。右(ロ)のうち入院一日につき二〇〇円の範囲内である一万円の限度で相当因果関係が認められ、(ホ)のうち入院期間五〇日につき一日七六〇円の範囲である三八、〇〇〇円の限度で相当因果関係が認められ、その余はすべて相当因果関係のある損害と認められ、(ヌ)の損害は四〇万と認めるのが相当である。

以上の人損合計は三五〇、〇六一円、物損四〇万円となる。

(二)  原告上石の治療費等損害

〈証拠〉によれば、原告上石は本件事故による前記受傷のため昭和四二年一〇月一六日から同年一二月二三日まで六九日間伊藤病院に入院治療を受け、その後昭和四三年九月頃まで、退院直後は一週に一度、それから二週間おきに一度程度同病院に通院したこと、(イ)昭和四二年一〇月一六日から同年一二月三一日までの入院費、治療費として一七八、〇三五円を要したこと、(ロ)薬代として六三〇円、弾力包帯代として二五〇円、頸椎カラー付属品代三、六五〇円を支払つたこと、(ハ)退院時のタクシー代一、五〇〇円、通院費一、一一〇円を要したこと、(ニ)入院中における日用品購入費、入院中における栄養補食費、入院中における副食費、家族見舞のための交通費、見舞客接待費、通信費として合計一三、八〇〇円を超える出費をしたこと、(ホ)付添料として昭和四二年一〇月一六日から同年一一月三〇日まで四六日間職業付添婦訴外児玉糸枝に付添を依頼し、七一、八五五円を支払い、同年一二月一日より同月二三日までは同原告の長女佐知子が付添つたこと、(ヘ)診断書費用として一、二〇〇円支払つたことが認められ、右(ニ)については入院一日につき二〇〇円の範囲内である一三八〇〇円の限度で相当因果関係が認められ、右(ホ)の長女佐知子の付添については一日一、〇〇〇円の割合で二三、〇〇〇円の損害と認められ、その余のものはすべて相当因果関係が認められる。

以上の合計は二九五、〇三〇円となる。

(三)  原告長岡の治療費等損害

〈証拠〉によれば、原告長岡は本件事故による前記受傷のため昭和四二年一〇月一六日から同月三〇日まで一五日間横畠外科病院に入院、同年一一月二一日まで同病院に通院したこと、(イ)治療費三九、四七六円を要したこと、(ロ)通院費として二、九二〇円を支払つたこと、(ハ)入院中の燃料費、入院中における日用品購入費、入院中治療中における栄養費、家族見舞のための交通費、見舞客接待費、見舞返礼費として三、〇〇〇円を超える出費をしたこと、(ニ)松葉杖借料四二〇円を支払つたこと、(ホ)入浴による温浴療法のためガス使用代として八四〇円を支払つたことが認められ、右(ホ)については入院一日につき二〇〇円の範囲内である三、〇〇〇円の限度で相当因果関係が認められ、その余のものはすべて相当因果関係が認められる。

以上の合計は四六、六五六円となる。

(四)  原告らの逸失利益

A  給与の損失

(1) 原告曾禰の損失

〈証拠〉によれば、原告曾禰は本件事故当時三菱重工業株式会社に勤務し平均月給(過勤料等を含む)一〇〇、七二〇円を得ていたところ、本件事故により欠勤し、昭和四二年一一月分給与として五八、三七〇円を受けたに止り、同年一二月分より昭和四三年三月分まで欠勤により給与を受けることができなかつたこと同年一二月分より昭和四三年三月分まで欠勤により給与を受けることができなかつたこと、右期間のうち昭和四三年二月から三月にかけ、本件事故による受傷とは相当因果関係のない急性肺炎にかゝり、同年三月二八日頃まで目蒲病院に入院したことによる欠勤も含まれていることが認められる。従つて本件事故による欠勤は昭和四三年二月半頃までと認められ、この期間の給与を失つたことの損失は昭和四二年一一月分差額四二、三五〇円、同年一二月分全額、昭和四三年一月分全額、同年二月については半月分として二五一、八〇〇円となり、合計二九四、一五〇円となる。

(2) 原告上石の損失

〈証拠〉によれば、原告上石は本件事故当時三菱重工業株式会社に勤務し平均月給一〇三、五五〇円を得ていたところ、本件事故により、昭和四二年一〇月一六日より昭和四三年三月末日まで欠勤し、このため、(イ)昭和四二年一〇月分過勤料一一、八四〇円の損失を受け、(ロ)同年一一月分給与として六一、一七〇円の支給を受けたに止り、四二、三八〇円の損失を蒙り、(ハ)同年一二月分より昭和四三年三月分まで給与を受けることができず、四ケ月合計四一四、二〇〇円の損失を蒙つたことが認められる。以上の合計は四六八、四二〇円となる。

(3) 原告長岡の損失

証拠によれば、原告長岡は本件事故当時三菱重工業株式会社に勤め平均月給一一九、二三〇円を得ていたところ、本件事故により昭和四二年一〇月一六日より同年一一月二六日まで欠勤し、(イ)昭和四二年一〇月分過勤料一二、七三〇円の損失を蒙り、(ロ)同年一一月分の給与として五五、九九〇円を受けたに止まり、(ハ)前給与との差額六三、二四〇円の損失を蒙り、昭和四二年一二月分給与として九三、七七〇円の支給を受けたに止り、前記給与との差額一二、七三〇円の損失を受けたことが認められる。以上の合計は八八、七〇〇円となる。

B  賞与の損失

(1) 〈証拠〉によれば、原告上石は本件事故による欠勤のため昭和四三年七月に支給された賞与に二九%の減額を受け、五五、五九〇円の損失を蒙つたことが認められる。

(2) 〈証拠〉によれば、同原告は本件事故による欠勤のため昭和四二年一二月に支給された賞与に二%、昭和四三年七月に支給された賞与に七%減額され、合計一九、九五〇円の損害を蒙つたことが認められる。

C  原告曾禰の定期昇給額を加算することによる損失

〈証拠〉によれば、原告曾禰は本件事故による欠勤により定期昇給賞与、退職慰労金等にある程度影響を受けたことが認められる。しかし、将来にわたる昇給、賞与、退職金への影響を高い蓋然性をもつて予想することは困難であり、さらに右甲第二号証は昭和四三年三月末までを本件事故による欠勤としての一応の算定であるところ、前記のとおり、本件事故による欠勤と認めたのは同年二月半ば頃までであるので、この期間の欠勤により影響される定期昇給、賞与退職慰労金等の額を明確に認められる証拠がない。しかし、右認定の影響を受ける事情は慰藉料算定につき考慮する。

(五)  過失相殺

(1)  原告曾禰の以上の損害の合計は、人損六四四、二一一円、物損四〇万円となるところ、前認定の原告曾禰の過失を斟酌すれば人損五七九、七八九円、物損三六万円となる。

(2)  原告上石の損害は合計八一九、〇四〇円となるところ、前記のとおり原告曾禰の過失を被害者側の過失として斟酌すれば七三七、一三六円となる。

(3)  原告長岡の損害は一五五、三〇六円となるところ、前記のとおり原告曾禰の過失を被害者側の過失として斟酌すれば一三九、七七六円となる。

(六)  慰藉料

(1)  〈証拠〉によれば、原告曾禰には後遺症として①前額部に約一〇糎の瘢痕を残し、②左目失明、③右膝関節運動の制限があり、右①は労災補償障害認定一四級の一三、②は同八級の一、③は同一二級の七に該当することが認められ、この事実と前認定の事故の態様、同原告の過失の程度、入通院の期間等一切の事情を考慮すれば同原告の受くべき慰藉料は一二九万円(入院期間につき一七万円、通院につき一五万円、後遺症につき一〇一万円、定期昇給、賞与、退職慰労金への影響一〇万円、合計一四三万円につき原告の過失を考慮した。)をもつて相当と認める(原告の慰藉料請求の範囲を超えるけれども認容総額において請求額を超えないかぎり差支えないと解する。)。

(2)  〈証拠〉によれば、原告上石は後遺症として後頭部に痛みがあり、天候の悪いときに特に痛むこと、右足のくるぶしの痛みがあることが認められ、この事実に、前認定の事故態様、原告曾禰の過失の程度、原告上石の入通院期間等一切の事情を考慮し、同原告の受くべき慰藉料は五六万円(入院につき二四万円、通院九ケ月につき一ケ月三万円とし二七万円、後遺症につき一一万円合計六二万円につき一割の被害者側の過失を考慮した。)が相当と認める。

(3)〈証拠〉によれば、同原告は後遺症として右大腿より右膝に亘り歩行時疼痛があり、特に下駄をはいて歩くことは困難であることが認められ、この事実に、前認定の本件事故の態様、原告曾禰の過失、原告長岡の入、通院期間等一切の事情を考慮し同原告の受くべき慰藉料は一九万円(入院につき五万円、通院につき五万円、後遺症につき一一万円、合計二一万円について被害者側の過失として原告曾禰の過失を考慮した。)が相当である。

(七)  弁護士費用

本訴提起について原告らが要した弁護士費(手数料、謝金)のうち被告らに賠償させるのは原告曾禰につき二〇万円、原告上石につき一三万円、原告長岡につき三五、〇〇〇円が相当である。

四、よつて被告らに対する本訴請求のうち原告曾禰の二、〇六九、七八九円、原告上石の一、四二七、一三六円、原告長岡の三六四、七七五円及び右各金員に対する訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四三年五月一一日から支払済にいたるまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分、被告藤井に対する原告曾禰の請求のうち三六〇、〇〇〇円及びこれに対する前同様昭和四三年五月一一日から年五分の割合による遅延損害金を求める部分は、いずれも正当として認容し、その余はいずれも失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九二条第九三条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。(荒井真治)

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